表紙
ネット『ペポ』8号

(小説)

「ジラフのラブアタック大作戦!」(エピローグ)



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              「ジラフのラブアタック大作戦!」(エピローグ)
                                              作: BMA (No.232)
     
     
     超高層ビルの立ち並ぶビル街。
     その中にひっそりとたたずむオンボロの貸しビル。
     しかし、笑ってはいけない。
     この会社にはこれで精一杯なのだ。
     
     そう、ここは新宇宙便利舎。
     
     そこに鼻歌交じりの上機嫌なジラフがやってきた。
     (ついにこの日がやって来た!)
     (今日の日のために少ない給料と内職でお金を溜めてきたんだ!)
     今日はジラフとアン教授の2回目の結婚記念日。
     
     (前回の結婚記念日は直前に大変な事故に巻き込まれるわ、)
     (半年もの間を飛び越えてしまうわで散々だったっけ…)
     (今回こそ2人でプレゼントを出し合い、結婚記念日を祝うのです!)
     ジラフは心の中でつぶやく。決意は堅い。
     
     ジラフは結局、アン教授に贈るプレゼントを決め兼ねており、
     会社帰りにプレゼントを買おうと、こっそり現金を持ち合わせていた。
     
     「なんや、えらい不景気な時にえらい上機嫌そうな顔やないか?」
     ラナがジラフに言った。
     
     「あ、いえ。別に何も…。」
     ジラフは照れながらごまかす。
     
     「ははは。例の頻発性恋愛症候群だよ。ほら、今日が2年目だから…」
     トッピーが笑いながらラナに言う。
     
     「ペポ〜!ジラフとアン、結婚して2年目!おめでとうペポ。」
     シビップがジラフに言う。
     「いや〜、そんな。照れるじゃない。」
     ジラフは満更でもない様子で答える。
     
     「アホくさ〜。」
     「それにしても、よう2年もアツアツでいられるな〜。感心するわ。」
     ラナが呆れながら言う。
     
     「今日ばかりは仕事がなくて幸運だね。ジラフ。」
     トッピーも冷やかすように皮肉をこめて言う。
     
     「いや〜、それほどでも。ははは…」
     ジラフは照れながら言う。
     「アホ!誰も誉めとらんわ!」
     ラナが不機嫌そうにつっ込む。
     
     (トン、トン)
     その時、オフィスのドアをノックする音が聞こえた。
     
     「あ、お客さんペポ!」
     シビップが言うと同時にトッピーがドアに駆け寄る。
     「あ、はい。どうぞ。」
     トッピーはドアを開けた。
     
     「これはどうも。」
     
     「!」
     トッピーは尋ねて来た人物の顔を見るなり、冷や汗をかく。
     「あ、これはこれは。わざわざこちらにまで足を運んでいただけるとは…」
     トッピーは冷や汗をかきつつ営業スマイルで応対する。
     「あの、ちょっとお待ちください。」
     
     トッピーが慌ててラナ達の所へ駆け寄る。
     
     「どないしたんや?一体誰が来たんや…?」
     ラナがトッピーに尋ねる。
     「管理人だよ。このビルの…」
     トッピーが耳打ちする。
     
     「実は、最近仕事が全然ないから、口座も空っぽで」
     「オフィスの使用料を数ヶ月分滞納してるんだ…」
     トッピーが皆に小声で打ち明ける。
     
     「な、な、な、なんやて!」
     ラナはそう言うと、管理人の顔色を伺う。
     
     「お金あるペポ?」
     シビップがトッピーに尋ねる。
     「あったらとっくに払ってるよ…」
     
     「じゃあ、どうするんですか?」
     ジラフがトッピーに言う。
     
     「ないもんはしゃあないやろ。帰ってもらうしか…」
     ラナが割り込んで言う。
     
     「おっほん。まだですかな?」
     管理人がオフィスの中に向かって言った。
     
     「あ、ただいま…」
     営業スマイルでトッピーが管理人の元へ駆け寄る。
     「え…?そんな…。」
     「なんとか、しますから…。」
     トッピーは何やら管理人と会話をかわすと
     相当に焦ったようにラナ達の元へ駆け寄った。
     
     「どないしたんや?」
     ラナは不安そうにトッピーに訪ねた。
     「今すぐに1月分でも払わなければ出てもらうしかないって…。」
     その言葉に全員が驚く。
     「ペポ!?」
     「そんな払える訳ないやろ!」
     小声で怒鳴るラナ。
     
     「せめて半月分…いや1/3月分でも払っておかないと…。」
     「せやかてなぁ…。」
     「全員の小遣い合わせたって1/10月分にもならんで…。」
     ラナは観念したかのようにポケットの中の全小遣い…15ラムダを出した。
     「僕も、コレだけしか…。」
     つづいてトッピーもポケットから30ラムダを取り出す。
     「…ペポ〜…。」
     シビップは申し訳なさそうに2ラムダを差し出した。
     
     「そら、見てみぃ〜、こんなんで勘弁してもらえると思うんか?」
     ラナは泣きそうな顔で絶望の表情を浮かべている。
     
     「ジラフはいくら持ってるんだい?」
     トッピーがジラフに訪ねた。
     
     「…え!?」
     全員の視線がジラフに注がれた。
     「な、な、な、なんですか?」
     汗を垂らし、引きつった笑顔をふりまきながらジラフが言う。
     
     「ジラフもはよ出せぇ〜、今もってる金全部。」
     ラナがジラフに言い寄る。
     
     「え?え?僕もそんなに持ち合わせが…。」
     と、ジラフが後ろへ後退しようとしたところ、
     「あ!」(ガツ)
     ジラフは足をもつらせて転倒した。
     するとポケットに入れていた財布が床に落ちてしまった。
     「なんだちゃんと持って…」
     トッピーがその財布を拾い上げ中身を見たとたん…。
     
     「ジラフ!これは!!!!」
     「どうしたんや?はぅあ〜!!」
     「ペポ〜!!」
     なんとジラフの財布の中には3000ラムダものお金が…。
     
     「ありがとうジラフ!これでなんとか勘弁してもらえるよ!」
     財布を持ったトッピーが嬉しそうに管理人の元へ駆け寄る。
     「ああ、それは!!!」
     ジラフが財布を奪い返そうとするも、後ろからラナに掴まれ制止された。
     「ジラフ!あかん!行ったらあかん!!」
     「これも会社存続のためや!」
     「ペポ〜!」
     シビップもラナの手を貸して暴れるジラフを押さえつける。
     
     「でも〜、でも〜、そのお金はぁぁぁぁ…!」
     ジラフの奮闘もむなしく…。
     トッピーは全財産を渡すと管理人はなんとか納得して去っていた。
     
     「あ、あぁ〜〜〜…。」
     泣きそうな顔で脱力してその場にへたれ込むジラフ。
     
     「ジラフ、これでええんや。お前は会社の危機を救ったんや。うむ。」
     ひとり納得してジラフを宥めるラナ。もっとも全然宥めになっていないが。
     「ジラフ、助かったよ〜、ちゃんと収入が入ったら利子つけて返すからさ。」
     トッピーも涼しそうな顔でジラフに言う。
     
     「はあ〜〜〜…」
     さっきまでの上機嫌っぷりが一転、
     ジラフは心ココに非ずの様子でどん底に落とされたかの如くへこんでいた。
     
     
     会社の帰り道はジラフは商店街をふらふらと歩いている。
     ショウウィンドウには綺麗な服やバッグや靴やら…。
     それらを眺めてはため息をついていた。
     (こんな所うろついてたって何か買える訳でもないのに…)
     そう思いながらもどうしてもやりきれないジラフだった。
     
     「気持ちがあれば…そう言うけれど…。」
     下を向いてそうジラフは呟く。
     「でも、今の僕にできることといったら、もう…」
     ジラフは再び新宇宙便利舎へと向かった。
     
     誰もいないオフィスの机で何や作業をしているジラフ。
     
     
     ジラフがアパートに戻る頃、部屋の窓には灯りがともっていた。
     いつもならアン教授の方が帰りは早いのだが、
     記念日ということで早めにきりあげてきたらしい。
     ドアの前で一呼吸おいて
     「ただいま〜」
     ジラフは中へと入っていった。
     
     するとアン教授が出迎えにきた。
     「おかえりなさい〜」
     「!?」
     ジラフは一瞬目を疑った。
     「どうしたの?」
     「いや、そ、その姿…。」
     アン教授は普段見慣れぬエプロン姿だった。
     「ふふ、ちょっとジラフを驚かせようと思って。」
     
     さらにキッチンへ入ってみると、そこには豪華料理の数々が…。
     「コレ、全部アンが作ったの!?」
     ジラフはさらに驚いた。
     「ええ、私だってその気になればこれくらい作れるわよ。」
     アン教授はどうだと言わんばかりに上機嫌な様子で胸をはってみせた。
     「すごいや…!ありがとうアン!」
     ジラフも心から嬉しい様子だった。
     
     さっそく二人でテーブルを囲む2人。
     
     「いただきま〜す!」
     ジラフが料理を一口ぱくついた。
     「…うっ!!」
     そしてジラフは固まった。
     
     「どう?おいしい?」
     アン教授が訊ねる。
     「う、う、うん、とととっても…。」(ゴクン)
     
     「本当?良かった〜。」
     アン教授はホっとしたように自らも料理を一口食べた。
     「…。」
     アン教授も固まった。
     
     「…ごめんなさい、コレ…」
     そうアン教授が言いかけると、それをもみ消すようにジラフが言った
     「いや、美味しいですって…ははは。」
     そういうとジラフは目の前にある料理を勢いよく食べ始めた。
     「ジラフ…、無理しなくても…」
     「ひいへ、ほんほうひほいひいんへふ!(いいえ、本当においしいんです)」
     そういうとジラフは見事にたいらげてみせた。
     「げふ…。」
     一方、アン教授は申し訳ない気持ちになった。
     
     食事も終わり、落ち着いた2人。
     
     ジラフはポケットに忍ばせてあるモノをアン教授に差し出すタイミングを見計
     らっていた。
     「アン…」
     「?…何?」
     アン教授はジラフの方を見つめた。
     
     「そ、そのコレ…、」
     ジラフは意を決してポケットの中の手紙を取り出した。
     封筒には「アンへ」と書かれていて、ハートマークのシールまでもが貼られて
     いる。
     アン教授は突然のことにキョトンとしている。
     「こ、これはその…、今の僕には何も贈れないけれど…」
     ジラフは照れくさそうに言葉を詰まらせる。
     「アンにとってはただの手紙にしか見えないかもしれないけれど…」
     「こ、これは…、昔と変わることのない貴方へ気持ちの証明書です。」
     そう言ってジラフはアン教授にその手紙を渡した。
     
     ジラフは新宇宙便利舎へ戻るとオフィスの机で手紙を書いていた。
     それはいつか何日も悩んだ末に書いたアン教授へのラブレター。
     今でもその言葉のひとつひとつが頭の中に残っている。
     一字一句があの時と変わらぬように鮮明にジラフの頭の中に残っていた。
     ジラフは再び、あの時とまったく同じ手紙を書いていたのだった。
     
     「…ありがとう。」
     そう言ってアン教授は微笑んでみせた。
     「こんな物で悪いんだけど…。」
     ジラフは申し訳なさそうに言う。
     「いいえ、嬉しいわ、本当よ。」
     「いいんだよ、アン、無理しなくても…、ガッカリしたろう?」
     ジラフは少し寂しそうな顔で言う。
     
     「ねぇ、ジラフ、さっきの私の料理やっぱりガッカリした?」
     アン教授が訊ねる。
     「いいや、そんな事ないよ!本当に嬉しかった…。」
     「私だって同じことよ。」
     そう言われてジラフは何も言えなくなった。
     「じゃ、じゃあ、僕お風呂入ってくる、ははは」
     ジラフは照れ笑いをするとその場を離れるようにバスルームへと向かった。
     
     ひとり残されたアン教授。
     アンは手紙を持ってこっそりと自分の部屋へと向かった。
     そこで封筒を開けると、笑みを浮かべながら手紙を読み始めるアン。
     しかし、アンにもその手紙の内容はすぐに判った。
     
     アン自身、その手紙を何度も読み返し、
     今でもその言葉のひとつひとつが頭の中に残っている。
     
     そして、アン教授は本棚の奥に閉まってある箱を取り出した。
     アン教授が内緒でこっそりと隠してある大事な秘密の「宝箱」だ。
     箱の中には様々な物が入っている。
     数枚のハガキや、ガラス玉や、ガラクタにしか見えないモノまで、
     それらのひとつひとつがアン教授にとってはかけがいのない宝物なのだ。
     
     その箱の中には、少し日に焼けた一通の手紙もあった。
     封筒には「アンへ」と書かれていて、ハートマークのシールまでもが貼られて
     いる。
     あの時、資料の間に挟まれていて、こっそり抜き取っておいた手紙…。
     アン教授はジラフから貰った「昔と変わらぬ気持ちの証明書」をその手紙の上
     に重ねるように置き、その箱を閉じると、そっと本棚の奥に閉まった。
     「ふふ、本当に不器用なんだから…」
     アン教授は微笑ながら呟いた。
     
     
     
     …数日後。
     
     新宇宙便利舎社員全員…つまり4名のみなのだが、
     朝早くから宇宙ステーションへと集合していた。
     
     「お、やっと来よったでぇ〜。」
     呆れたようにラナが呟く。
     「す、すみませ〜ん」
     息をきらしながらジラフがサジタリウス号の元へ走ってきた。
     「ジラフ〜、遅いやないけぇ〜!」
     「せっかく仕事が入ったゆうのに、遅れて来る奴がおるか!」
     ラナはジラフに怒鳴り散らす。
     
     「いや〜、目覚ましがちゃんと鳴らなくて…」
     「こんな時に限ってアン教授はいつもより仕事が早くて誰もいなくて…」
     「まあ、不幸が重なったって事で、ははは」
     ジラフは笑って誤魔化そうとするが…、
     「じゃかあ〜しぃ!到着遅れたらジラフの責任やからな!」
     ラナは怒りながらサジタリウス号へと乗り込んでいった。
     「まあ、とりあえずはコレで全員そろったね。急ごう」
     トッピーとシビップもサジタリウス号に乗り込む。
     「あ、ちょっと待って下さいよ〜」
     それに続いてジラフも慌てて乗り込んだ。
     
     操縦席にはすでにトッピーとラナがスタンバイしており、
     シビップも座席についている。
     
     「ところで、今回の仕事は何なんです?まだ聞いてませんが…。」
     ジラフがトッピーに訊ねた。
     「ちょいと、お客様はお運びするんだよ。2名ほどね。」
     トッピーはジラフにウインクをしてみせた。
     「へ?そのお客ってどこに?」
     「本当にトロいやっちゃなぁ〜、もう乗り込んでるやろ!」
     ラナが言う。
     「へ?どこに?」
     
     「ここよ。」
     聞き覚えある声が後ろから聞こえてきた。
     「ア、アン!!?」
     ジラフは驚いた。
     「あれ?アン、仕事に行ったんじゃあ…」
     アン教授は笑いながら答える。
     「ふふ、しばらく休暇をもらったの。」
     「へ?へ?へ?」
     困惑するジラフを尻目に
     トッピー、ラナ、シビップはニヤつきながら互いの顔を見つめあう。
     
     そして、トッピーがニヤついたままできりだした。
     「いいじゃないの、たまには夫婦でのんびり旅行っていうのも。」
     「せや、今回は2人がお客様やで。」
     つづけてラナも言う。
     「ペポ〜!」
     
     してやられたといった表情でジラフが何かに気が付いた。
     「ああ!まさか僕の目覚ましをいじったのは…」
     アン教授が笑いながら言った。
     「私〜」
     「ああ、やられた〜!」
     ジラフがそう言うと皆いっせいにどっと笑った。
     
     「だって〜、くやしいじゃない。」
     アン教授がそう言うと、ジラフは不思議そうに聞き返した?
     「…え?悔しいって?」
     
     「全部トッピーさんから聞いたわよ、ありがとう、ジラフ。」
     「へ?」
     ジラフは訳がわからないままトッピーの方を見る。
     「今回の旅行、あなたが秘密で計画してくれたんでしょう?」
     「???」
     
     笑いながらアン教授が言う。
     「ソレ聞いて、わたし悔しいもんだから、出発日をジラフに内緒で変えちゃえ
     〜って」
     「ごめんなさいね、でも、これでおあいこ様よ。」
     そう言うとニッコリとアン教授が微笑みかけた。
     「あ、え?ああ、…バレちゃってたのか、ははは…。」
     ジラフも笑ってみせる。
     
     するとジラフはトッピーとラナに駆け寄った。
     「トッピーさん…ひょとして…」
     「ははは、「利子をつけて返す」って言っただろう?」
     トッピーはジラフにウィンクしてそう囁いた。
     「まあ、本当は依頼された荷物運びの仕事も実際に兼ねてあるんやけどな、は
     はは。」
     ラナも小声で苦笑いした。
     「ははは、ありがとうございます。」
     ジラフも小声で笑ってみせた。
     
     「それじゃあ、出発!」
     
     サジタリウス号は再び宇宙へ向けて飛び立っていった…。
     
     めでたし、めでたし。
     
     
     と、いきたい所だが
     ここだけの話、
     幸せいっぱいの彼らだが、きっと例外なく訪れた先の惑星で
     またやっかいな事件に巻き込まれてしまうに違いない…。
     しかし、今は彼らには黙っておいてあげよう。
     とりあえず、今回のお話はここまで。
     
     また宇宙のどこかでお会いしましょう。
     
                                                           <おしまい>
     
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