ネット『ペポ』6号
---------------------------------------------------------------------------- 「漂流、サジタリウス号 ―夢光年異聞― 第二回」 作: 柚崎奈津子 (No.018) 宇宙の中の一つの星。そろそろ夜明けだろうか。 その水平線の果てまで見えるのは、どこまでも続く水面。さざなみだけが、風の 跡を残していく。 いつものような、静かな夜明けのはずだった。そう、ついさっきまでは・・・。 ズワッシャーーーンンンン!!!!!! まるで、大きな船が転覆したような大きな音が水面に響き渡った。 何か、ペンシル型の乗り物だろうか。波が高すぎて良く見えない。しばらくする と、波がおさまっていく。どうやら、薄緑色の小さなロケットだった。 その姿がはっきりしたと思ったら、ロケットからかなり離れて、また、ザッバア アアーーンンと水音が高く跳ねあがった。 ペンシル型のロケットも、その波のあおりを受けて、またもみくちゃにされる。 そうして、30分くらい経ったろうか・・・夜明けの太陽がその姿を白く変える 頃、ようやく二つの物体は、穏やかな波の中に戻った.。 「あったたたたた・・・」 操縦席から転げ落ちていたトッピーは、ようやく身体を動かすことができて、そ の痛みに初めて気づく。なにせ、ロケット部からの墜落と言う、サジタリウス号 の数々の故障の内でも、極めてまれなケースだっただけに、ロケットごとの沈没 と言う最悪のシナリオを避けるため、胴体部の切り離しを行ったのだが、とにか く高度とエンジン出力が足りず、ほとんど頭ししから突っ込む形で水面に墜落す る形となってしまった。おまけに、胴体部はエンジンカットはしていたものの、 その影響で自由落下状態となり、サジタリウス号ロケット部分より、約3分遅れ る形で水に接触。その結果、安定しかけていたロケット部も、波にあおられる形 となり、クルーたちは、船内を上に下にと転げまわる羽目になってしまっていた ・・・。 「みんな、大丈夫かい?」 なんせ10年近くこのメンバーのリーダーをしている。最初の行動は、いつもト ッピーからだった。 「いっ!痛い!おもいっ!」 神経質な甲高い声はジラフのものだ。 「骨とかは平気かい?ジラフ」 一方、トッピーは最初に気がついたので、まずはクルーが無事かどうかの確認に 頭が切り替わっている。 「そっそんなことより、なんでこんなに重いんですか?!身体が動かないんです よお!」 ジラフの方は、まだパニックから抜けて無いらしい。その声で、 「あ〜っ、もうやかましいわい!毎度毎度うるさいやっちゃなあ!」と、ラナが ジラフの足元から起き上がる。 「ラナ、無事かい?」 「この状況を無事というんかい?トッピー」ラナは少々呆れ顔だ。 「ったくぅ。なんでこうオンボロなんや?この船は!毎度毎度どっかが壊れよる。 心臓がいくつあっても足りんわ!」最後の方は、いつもの怒鳴り節である。 「ま、身体の方は大丈夫みたいだね。ジラフはどう?」トッピーは慣れたもので、 ラナの怒りを流しつつ、ジラフに訪ねる。ラナは憮然としながらも、今はメンバ ーの無事の確認が大事だとはわかっているので、トッピーとジラフの様子を見る と・・・ 「シビップ!お前大丈夫なんかい!」 ラナの声に、トッピーもようやくシビップの状態に気づいて、彼女をジラフのう えから降ろして、仰向けに寝かせる。胸元に耳をあて、鼓動を確かめて・・・ 「ラナ、生きてるよ。」ほっとした顔でトッピーが答える。 「良かったぁ。こんな星で死なれたら、ライララ村の両親に、わしら顔向けでき へんでぇ。」大きなため息をつきながら、ラナが答える。 「僕の心配はしてくれないんですか?」やや恨みの入った声がする・・・トッピ ーとラナは、顔に作り笑いを浮かべて、その声の主を見る。 「べ、別に心配はしてたさぁ。ジラフ」 「そやで、お前、痛いとこあるんとちゃうか?」からかうようなラナの声の響き に、 「ラナさんとシビップが二人して僕にのっかっていたからでしょうがあ!」と、 声を嗄らさんとばかりにジラフが怒鳴る。トッピー達は、その声に鼓膜をやられ ないようにそっぽを向く。 「まあ、胴体の落下のショックで大波がきたからね。僕だって、頭と腰がちょっ と痛いんだけどね。」はにかみ笑いでトッピーがジラフの怒りをかわす。 「それだけ大声がでるなら、怪我なんかしとらんやろ。」ラナがちゃかす。 「なんです、大声って。」と、ラナに喧嘩を売ろうとしたジラフの足元で、 「わ、ジラフ、だめペポ!」と細い悲鳴―その直後― 「わ、あ、あ、あ、あーーーーーーっ!!!」 ―ジラフは、目を覚ましたばかりのシビップの足に躓いて、鼻から転ぶ羽目にな ってしまった・・・。 「どや、ジラフ、なんか見えるかぁ。」 「う〜ん・・・・・・・・・。」 サジタリウス号の船腹部で、釣り糸をたらしているのはラナ、その背後で反対側 の方向を、双眼鏡で覗いているのはジラフである。 墜落のショックから落ちつくと、次の問題は、ここの位置を知ることと、食料確 保の問題だった。 いや、まずは、救助信号を出すべきなのだが、見事に故障していて、今トッピー が修理に入っている。が、少なくとも1日はかかりそうである。シビップはトッピ ーの助手(実際は工具を手渡すだけだが)として、彼についている。 幸いなのは、故障前に、昼食時だったので、一食分のチューブ宇宙食はあるのだ が、ほとんどの食料は、荷物ブロックに積んでいたため、あとは救命ポッドにあ る3日分の食料ぐらいしかない。サジタリウス号の故障具合を確かめ、救助信号 の修理を待つか、なんとか動く先端部で近くの街まで移動するかを決めるか・・・。 多少の討論の末、両方の方法を取れるように、2班に別れて行動しているわけで ある。 「あ〜〜っ、は〜ら減ったでぇ。トッピーの奴、『これから宇宙港や街に入れる まで、何日かかるか、今の時点ではわからない。それがはっきりするまでは、食 事は一日2回、一食半分だよ』ってケチるから、わしもう腹ペコや。あ〜〜あ〜 ラザニア〜」 ラナは延々と食べ物の恨みを口にしている。ふと、太陽の方へ目をやる。日差し が少々眩しいが、船体を半分浮かべたサジタリウス号の荷物ブロックの姿があっ た。 ざっと見ても、3キロは離れている。泳ぎ着いて、食料を確保する位ならできそ うだが、なにせ運動音痴一人、不器用一人を抱える新宇宙便利舎である。どうし ても、 トッピーかラナが取りにいかざるをえない。そうなると、通信機やエンジンの修 理に時間がかかる上、お互いいい年なので、その後の体力の回復が・・・少々心 配になるお年である。 <つづく> ----------------------------------------------------------------------------