表紙
ネット『ペポ』5号

(小説)

「ジラフのラブアタック大作戦!」(第ニ回)



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              「ジラフのラブアタック大作戦!」(第二回)
                                              作: BMA (No.232)
     
     
     <数日後>
     
     冬の朝6時前・・・
     外はまだ暗い。
     
     「フフン・・・フンフン・・・♪」
     「ツイてるね〜♪あ、ツイてます〜♪」
     鼻歌まじりで、ご機嫌な様子のジラフが人影のない研究所の廊下を歩いてくる。
     手には花束。何をしでかすつもりなのだろうか?
     
     「やっぱり女性は花に弱い!」
     ジラフはその場でくるりと一回転。ポーズをきめた。
     
     「毎朝はやく、花をこっそり研究室に飾っておく・・・」
     「いったん研究室を後にする・・・」
     「すると、研究室にやって来たアン教授が花に気づく・・・『まあ、素敵なお花!
     一体だれが・・・』」
     ジラフはアン教授の声まねをしながら言った。もちろん、全く似ていない。
     
     「しか〜し!ここで名乗りをあげちゃあ、いけません!」
     誰に言うでもなく、独り言を言っている。
     
     「しばらくは、とぼけたふりをするんです。」
     「そしてある朝、わざといつもより遅く研究室に来て花を飾っていると・・・」
     「いつもより早く研究室に来たアン教授と、はち合わせになる!」
     「アン教授は驚く!『まあ、ジラフ君・・・。そう、あなただったのね・・』」
     またジラフはアン教授の声まねで言った。
     
     「ああ、なんて運命的なのだろう・・・!」
     自分で計画しておいて、どこが運命的なのやら・・・。
     
     「『ジラフ君・・・、私のために、毎日こんなに朝はやくから?』」
     またもや似ていない声まねである。
     「もちろんだよ、アン教授・・・いや、アン。」
     ジラフは声を低くし、少し気取った感じで言った。
     「君のためなら、僕は何だってするさ!」
     「『ジラフ君、素敵!』」
     「アン!」
     「そして、二人は抱き合い、そっと口づけを交し合うのだ!」
     ジラフは完全に妄想の世界に入り浸っている。
     
     軽やかなステップを踏みながら、ジラフは研究室のドアへ。
     
     「今行くよ〜!ア〜ン!」
     ジラフは研究室のドアを勢いよく開けた。
     
     「いったい何処へ行くの?ジラフ君」
     研究室のデスクに座っていたアン教授が振り返りながら言った。
     
     「へ?」
     ジラフの動きが止まる。
     
     「今日は早いのね。いつもなら時間ぎりぎりに慌ててやって来るのに。」
     アン教授は微笑みながら言った。
     
     ジラフは口をあんぐりと開け、放心状態である。
     「ア、アン教授・・・随分・・は、早いんですね・・・。」
     放心状態のまま苦笑いしながら言った。
     
     「ええ。今、大事なところだもの。のんびり寝てなんていられないわ。」
     
     気まずそうにジラフが口を開いた。
     「あ、あのう、すると、さっきの廊下の声も・・・?」
     ジラフは、なお放心状態のまま汗をだらだら流している。
     
     「え?廊下の声って?」
     アン教授は首をかしげながら言う。
     どうやら廊下でのジラフの声は聞いていないようだ。
     
     「いえ、知らないならそれでいいんです。・・・ははは・・・。」
     ホッとしたのか、笑いでごまかしながらジラフが言った。
     
     「あら?ジラフ君、その花・・・どうしたの?」
     アン教授がジラフの持ってきた花束に気づいた。
     
     ジラフは慌てた。
     「え? え〜、これは、そ、その〜。」
     花束を隠そうとするが、見つかってしまっているのでもう遅い。
     「こ、これはその〜・・・・・、研究室に飾ろうかなぁ・・・なんて、・・・
     はははは。」
     ジラフは必死で笑ってごまかす。
     
     (何言ってんだ僕は・・・。このままじゃ、せっかくの計画が・・・)
     (こっそり飾らないと作戦の意味がないのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!)
     ジラフの心の中はパニック状態である。
     
     「あら、いいんじゃないかしら。ジビーもきっとビックリするわね。フフフッ。」
     笑いながらアン教授が言う。
     
     (ち、違う!ジビーじゃなくて、あなたのためなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
     ぁぁぁぁぁぁ!)
     ジラフは心の中で叫んだ。
     
     「そ、それじゃあ、この辺にでも飾っとこうかな〜。はははは・・・・はぁ。」
     仕方なくジラフは花を花瓶入れて適当な場所にを置いた。
     
     どうやら作戦は失敗に終わったらしい。
     
     そこへジビーがやって来た。
     「おはよう!・・・って、ジラフ、今日は早いなぁ。」
     
     「・・・・・・・・。」
     ジラフは完全にバーンアウト状態だ。
     
     その様子を見て、ジビーは全てを悟ったらしい。
     (さては、失敗したな・・・。)
     ジビーは心の中でつぶやいた。
     
     研究室の窓辺に飾られた花束がポツンとむなしい・・・。
     
     
     ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
     
     
     <数日後>
     
     「フフン・・・フンフン・・・♪」
     
     「ツイてるね〜♪あ、ツイてます〜♪」
     またしても、ご機嫌な様子でジラフが研究所の廊下を歩いている。
     大事そうにカバンを抱えている。
     
     「いきなり告白したんじゃ、相手も戸惑うばかり。」
     ジラフはまた誰に言うでもなく、独り言を言っている。
     
     「ここは想いを込めたラブレターですよ!やっぱ!」
     ジラフはその場でくるりと一回転。ポーズをきめた。
     
     どうやら、カバンの中にラブレターがはいっているらしい。
     ジラフは意外に文才があるらしく、その内容もきっと素晴らしいものだったに違
     いないが、
     文字数の関係でその内容については割愛。
     
     「でも・・・」
     急にジラフは力無さ気につぶやいた。
     「どうやってアン教授に渡そうか・・・。」
     どうやら、そこまでは考えていなかったらしい。
     
     そうこうしている内に、ジラフは研究室のドアの前まで来ていた。
     
     「おはようございます。」
     ジラフは研究室のドアを開けた。
     
     「あ、ジラフ君。おはよう。」
     いつも通りのアン教授の姿があった。
     
     「おはよう。ジラフ。」
     ジビーもすでに研究室に来ていたようだ。
     
     ジラフは自分のデスクに座ると、誰にも見られない様にカバンの中からこっそり
     ラブレターを取り出した。
     封筒には「アンへ」と書かれていて、ハートマークのシールまでもが貼られてい
     る。
     ジラフはアン教授の様子をチラチラとうかがいながら、手に持ったラブレターを
     見ている。
     
     (まぁ、なんとかチャンスを待つとしよう。ここで焦るとまた失敗するぞ。)
     ジラフは自分の心に言い聞かせ、その手紙を自分のポケットの中に入れた。
     
     やがて時間は過ぎ、もう午後4時になろうとしていた。
     
     なかなかチャンスが訪れない。さすがにジラフは焦ってきた。
     
     (あああああ!僕は何をやってんだ!)
     ジラフは他の事が手につかない状態だ。
     
     「ねぇ、ジビー君、請求した資料番号っていくつだったかしら?」
     アン教授がジビーにたずねた。
     
     「えーっと、AC-090432ですね。」
     ジビーが手元のメモを見ながら答える。
     
     「悪いけど、その資料のコピーをとってきてくれる?」
     アン教授がジビーに向かって言った。
     
     「!?」
     そのやり取りを聞いていたジラフが何かを思いついた様だ。
     
     「きょ、きょ、きょ、教授!そのコピー、僕がとってきます!」
     ジラフがいきなり叫んだ。
     アン教授はその大声に少し驚いた様子である。
     「じゃ、じゃあ、ジラフ君、お願いできるかしら?」
     
     「もちろんです!」
     鼻息を荒くし、少々興奮ぎみにジラフが言った。
     ジラフは研究室を出ると早足に資料室へ向かった。
     
     「ええっと、AC-090432・・・・090432・・・・・」
     「あ!あったこれだ!」
     ジラフは見つけた資料のコピーをとる。
     
     そのコピーした資料の中に、ポケットに忍ばせておいたラブレターをそっと挟ん
     だ。
     
     「これをアン教授に渡せば、必ず僕のラブレターに気づくはずだ!」
     「我ながら素晴らしい思いつきだなぁ。ククク!」
     自信満々の様子でジラフがつぶやく。
     
     ジラフはコピーした資料を持って研究室へと戻ってきた。
     
     「アン教授、これコピーしてきました。」
     
     「ありがと。」
     アン教授はジラフからコピーを受け取ると、自分のデスクの上に置いた。
     
     「あ、そうだ!僕、これからちょっと行かなくちゃいけないところが・・・」
     わざとらしくジラフがそう言い、研究室を出て行った。
     
     (アン教授が僕の手紙を読み終えた頃を見計らって戻ってこよう。ククク。)
     今のところ、ジラフの計画通りの様である。
     
     ジラフは研究所の中庭で顔をニヤつかせながら一人座っている。
     なにやら、あれこれ想像している様だ。
     
     あれから数時間が経ち、外も暗くなってきた。
     
     「もうそろそろ良い頃かな・・・。」
     そうつぶやくとジラフは研究室へと歩いて行った。
     
     研究室のドアの前。
     ジラフはそ〜っとドアを開ける。
     そこにはアン教授の姿があった。
     
     「きょ・・・教授・・・。」
     ジラフは緊張した様子でアン教授に呼びかけた。
     
     「あ、ジラフ君、用事はもうすんだの?」
     何事もなかったかの様に、いつもと同じ口調でアン教授が答える。
     
     「?」
     ジラフは予想に反したアン教授のリアクションに困惑している。
     
     「あれ?」
     ジラフは先程までアン教授のデスクの上にあった資料のコピーがなくなっている
     のに気がついた。
     
     「教授、さっきのコピーは?」
     ジラフはアン教授に尋ねた。
     
     「え?ああ、さっきのコピーは・・・」
     アン教授が申し訳なさそうに言う。
     「実は・・・、ジビー君が資料番号を間違っていてね・・・」
     
     「え?間違っていたって?」
     ジラフは嫌な予感がした。汗がたらりと流れる。
     
     そこへジビーが現れた。
     「あ、ジラフ、悪い悪い。3と8を見間違えてて・・・・・」
     「まあ、誰にでも間違いはあるし・・・、オレ達親友だろ?許せ、な。ははは
     ・・・。」
     笑ってごまかしながらジビーが言った。
     
     ますます嫌な予感が膨れ上がる。
     「す、すると・・・、あのコピーは?」
     ジラフはアン教授に尋ねた。
     
     「え?必要ないから捨てたけど・・・。」
     そっけなくアン教授は答えた。
     
     (がーーーーーーーーーーーーーーーん!)
     (なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!)
     ジラフはまたしても放心状態となった。
     
     「教授、そのラブレ・・・じゃなくて、そのコピーはどこに捨てちゃったんです
     か?」
     放心状態のままジラフが尋ねる。
     
     「え?一応、重要な書類のコピーだったから、まとめてシュレッダーにかけちゃ
     ったんだけど・・・・。」
     
     (がーーーん!がーーーん!がーーーん!)
     ジラフは真っ白に燃え尽きた。
     
     あちゃ〜。といった表情でジビーが申し訳なさそうにジラフの方を見る。
     
     アン教授はそんなジラフを見て、心配そうに言った。
     「ジラフ君、あのコピー必要なものだったの?・・・ごめんなさい。もう、いら
     ないかと思って・・・。」
     
     「い、いえ、いいんですよ。コピーなんて、またとればいいだけの話ですから。」
     ジラフはアン教授に気遣いながら言った。
     
     ジラフはジビーの方を見た。
     「え〜と、ジビー君!君も別に気にしなくていいんだよ!失敗は誰にでもある事
     だからね!ははは!」
     顔は笑顔だが、ジラフの目は血走り、ジビーを思いっきり睨みつけていた。
     
     ジビーは口笛を吹きながら、それを見て見ぬ振りをする。
     「あ、そうだ!オレ、教授に頼まれてた資料をまとめないと・・・。」
     ジビーはその場をごまかした。
     
     
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
     
     
     やがて日も暮れ、ジラフとジビーが帰路につく。
     
     「・・・ジビー。」
     ジラフが恨めしそうな声でジビーに呼びかけてきた。
     
     (ギクッ)
     ジビーは嫌な予感がした。
     
     「今日は・・・・・」
     「とことん付き合ってもらうぞ!」
     ジラフはジビーの腕をつかみ、引きずる様にして引っ張っていく。
     
     (げ!またかよ!・汗)
     ジビーはどちらかというと諦めムードだ。
     
     二人は街の居酒屋の方へと消えていった。
     
     今夜もどこかで、ジラフの叫び声がこだまする・・・。
     
     
                                                               <つづく>
     
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